軟骨を治療する方法はある?
再生医療は失った臓器や組織を取り戻すべく研究されている医療分野です。整形外科領域では、QOL(生活の質)に大きく関係する変形性ひざ関節症の治療法として注目されていて、ひざ関節の軟骨再生は永遠のテーマとして掲げられています。
保険適応となった治療法
再生医療にも、公的な医療保険の適応となっている治療法が存在します。自家培養軟骨移植術です。
関節鏡手術で患者さまの健康な軟骨を採取し、培養軟骨を作製してから欠損部分へ移植します。ただ、残念ながら半月板損傷や変形性ひざ関節症は適応外。保険適応はスポーツや事故の影響による外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎で、欠損した軟骨の面積が4㎠以上[1]という条件がありますが、軟骨の欠損を補修する画期的な治療法のひとつです。
変形性ひざ関節症に対する研究も加速中
変形性ひざ関節症とはひざに痛みが生じる病気で、関節が動きにくくなったり変形したりして、進行すると歩くことすらままならなくなってしまいます。その発症のきっかけとなるのが、軟骨のすり減りです。進行することで骨にまで損傷が及び、先にあげたような末期症状に至ります。
加齢の他、肥満や既往歴、性別なども関係するため、未然に防ぐことが難しいのが実情です。この病気で失った軟骨を取り戻す方法については、国内外の多くの機関が研究に取り組んでいます。
方法は様々で、ノーベル賞で話題になったiPS細胞もそのひとつ。iPS細胞から軟骨細胞、そして軟骨組織をつくり出して関節内に移植するという方法が京都大学で研究されています。ラットやミニブタでの実験はすでに成功しているそうです[2]。
また、東海大学が研究を進める自己細胞シートによる軟骨再生治療は、2019年1月に先進医療に認められました[3]。患者さまから採取した健康なひざ軟骨を培養かつシート状にし、欠損部に移植するという治療法です。高位脛骨骨切り術に併用する治療のため、人工関節置換術しか受けられない末期の患者さまは選択できませんが、今後ますます臨床研究が加速すると予測されます。
ひざを切らない再生医療の効果や目的は?
変形性ひざ関節症に対する再生医療は他にもあり、すでに複数の医療機関が自由診療で提供を始めています。代表的なのが、脂肪や血液を活用する治療法です。
これらの治療では、従来の保存療法で改善が見られないひざの痛みを解消することが第一の目的。ただ、同時に組織の修復を促す作用から、変形性ひざ関節症による軟骨の破壊を抑制する効果が期待できます。
さらに特筆すべきは、治療が注射で行えるということです。人工関節置換術はもちろんですが、先にご紹介した2つの再生医療でもひざの手術は必要になります。しかし、脂肪や血液を使った再生医療はひざを切らずに治療できるため、治療選択の幅がぐんと広がりました。
脂肪を活用する理由
正確には脂肪ではなく、組織に存在する幹細胞を利用します。幹細胞とは特定の細胞に成長していない言わば細胞の赤ちゃんで、血管や神経、骨、軟骨など様々な細胞になる能力を持っています。そのため、失った組織や機能を補う可能性が期待されているのです。
幹細胞は身体の様々な組織に存在しているのですが、なかでも脂肪はより簡易な方法で採取でき、たくさんの幹細胞を保有しています。そのため整形外科以外の分野でも、臨床応用のための研究が進められています[4]。
低侵襲な治療にこだわる横浜ひざ関節症クリニックでは、脂肪から抽出した幹細胞を増殖させてから関節内に注入する「培養幹細胞治療」を採用しています。
血液を活用する理由
例えば切り傷やすり傷を負ったとき、血液に含まれる血小板という細胞が、止血や傷を塞ぐなどことに働きます。この自己修復作用が、再生医療に応用されているのです。血小板を濃縮したPRP治療が代表的で、スポーツ選手が用いたりテレビ番組で紹介される機会も増え、ここ数年で認知も広がっています。
PRP治療では、自己修復作用の一時的な高まりで、痛みの軽減や早期治癒が期待できます。慢性的な痛みを伴う変形性ひざ関節症にも有効です[5]。
横浜ひざ関節症クリニックでは、血小板を濃縮したPRPをさらに高濃度に加工したものを関節内に注入する「PRP-FD注射」を行っています。
安全性は大丈夫?
自由診療で再生医療を提供するといっても、医療機関が勝手に採用して治療に用いているわけではありません。日本には再生医療に関する法律が存在し、治療提供には厚生労働省への届出が義務化されています。それも提出するだけでなく、治療の提供計画や安全性・有効性を裏付ける資料について厳しい審査が行われます。そうして受理された病院やクリニックにのみ、再生医療の取り扱いが認められているのです。
横浜ひざ関節症クリニックの再生医療についても届出が受理されていて、計画番号(PB3190073)を取得。患者さまへは治療前に十分な診察とご説明を行い、届出のとおり正しい手順でご提供しております。
出典
- [1] ∧再生医療等製品 ジャック 添付文書 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- [2] ∧Akihiro Yamashita, et al. Generation of Scaffoldless Hyaline Cartilaginous Tissue from Human iPSCs. Stem Cell Reports. 2015 Mar 10; 4(3): 404–418.
- [3] ∧自己細胞シートによる軟骨再生治療」が厚生労働省先進医療会議で「適」判定. 東海大学医学部付属病院プレスリリース
- [4] ∧中山享之ほか. 脂肪組織由来間葉系幹細胞を利用した細胞療法―現状と展望―. Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 59. No. 3 59(3):450―456, 2013.
- [5] ∧Lior, L., et al. PRP for Degenerative Cartilage Disease: A Systematic Review of Clinical Studies. Cartilage. 2017 Oct;8(4):341-364.